2013年02月09日
『若者はなぜ3年で辞めるのか?』
先日の『宇宙のダークエネルギー』に続き、『ローマ人の物語』を中断して読んだ光文社新書の一冊。
これも、「○○が読む本」などで紹介されていて購入し、長いこと「積ん読本」となっていたもので、いい加減読んでおこうと引っ張り出してきた本です。
タイトルの『若者はなぜ3年で辞めるのか?』を見た時は、今時の若者の考え方や行動を解説した本だとばかり思っていました。
しかし、読み始めてみるとこれがまったく違っていて、「昭和的価値観」=「年功序列制度」がいかに若者を、いや、日本を閉塞感に陥らせているかを説いた本だったのです。
よく見ればサブタイトルには「年功序列が奪う日本の未来」とありました。
そんな本書の要約部分を抜粋してみると以下のようになります。
「昭和的価値観」は、企業内に年功序列というレールを敷き、安定性と引き換えに世界一過酷な労働を強いている。そのレールから降りることを許さず、一度レールから外れた人間はなかなか引き上げようとはしない。
それは、自分に適した人材を育成するための教育システムも作り上げてきた。小学校から始まるレールのなかで、試験によってのみ選抜されるうち、人はレールの上を走ることだけを刷り込まれ、いつしか自分の足で歩くことを忘れ果てる。最後は果物のように選別され、ランクごとに企業という列車に乗り込み、あとは定年まで走りつづける。
「昭和的価値観」が作り上げ、維持してきた年功序列制度は、実に優れたものだった。誰もが安定して長い期間働くことで技術力が蓄積され、日本製品は世界の市場を席巻した。
横並びで詰め込み型の教育システムは、均質で従順な労働者を大量に供給し、彼らは超長時間労働に文句も言わず、年功序列が他企業の原動力となって馬車馬のように働いた。
いまの日本を形作ったのは、まさしく年功序列制度だと言っていい。
だが、成長の時代が終わり、年功序列制度が崩壊の危機に瀕すると、暴走し始める。
本来は「誰もが幸せになるために、ちょっぴり権利を与えた」はずが、自らを延命させるためだけに、若者を絞れるだけ絞ろうとし始めたのだ。
派遣社員の拡大、新卒雇用の削減、年金保険料の引き上げ。すべては社会の発展のためではなく、彼らが生き延びるためだ。
歪んだ格差は、少子化となって社会自体を危うくし始めている。1990年代、ひとりの老人を4人の現役世代でで支えていたが、2025年には2人で支えなければならないことはすでに確実だ。それが本当に出来るのかどうかは誰にもわからないが、それでもいまの若者は黙々と老人たちに貢ぎ続けている。
高度経済成長期を支え、日本が世界に誇った「年功序列制度」
著者はそれを「昭和的価値観」と呼んでいますが、システムとしてはすでに崩壊しているのに、いまだ社会の多くの場面で活躍しているといいます。
いや、むしろ社会の二極化が叫ばれる中、より安定したレールを目指す風潮は強まっており、この「昭和的価値観」が復権しているそうです。
自分たちの既得権益を守るべく、50代以上の人間はこのシステムを手放さず、結果割を食うのが若者。
こうして、若者は将来に失望し、新卒後3年以内に実に36%超が辞めていく(2000年現在)と。
本書では、そんな若者たちにツケを回す社会状況を、企業や労働組合、公務員、政治など様々な例を挙げて示しています。
その上で、若者たちにもう一度「なんのために働くのか」という「働く理由」を取り戻し、「声を上げて」世の矛盾と戦えと提言して締めくくっています。
とまぁ、大まかにまとめてみたわけですが、いわゆる企業というところで働いたことのない自分には、報酬体系的年功序列制度はよくわかりません。
それでも、社会のあらゆる場面で、いまだ年功序列制度が幅を利かせているという現実は理解できます。
また、景気の低迷や、人口減少等、日本の社会を取り巻く環境が大きく変わっているにもかかわらず、右肩上がりの時代の価値観にしがみついて、問題を先送りしてきたことも。
確かに、若者にツケを回してきたのは事実だと思います。
しかし、あまりに「不当に収奪している年長者」と「不当に収奪されている若者」といった対立軸を強調しすぎて、しかもそれはすべて古いシステムのせいである、というような極端な主張にはやや違和感を覚えました。
また、そうした「不当に収奪される若者」の実像ばかりにページを費やさず、もう少し「われわれはなんのために働くのか?」や「仕事を通じて何を実現しようとしているのか?」といった提言部分に、もう少し力点を置いて欲しかったです。
とはいえ、著者の分析力と文章力でとても説得力のある本ではありました。
2006年初版ということで、7年も前に書かれた本ではありますが、時代背景が大きく変わったとは思えませんし、特にこれから就職しようと思っている若者には参考になると思います。
さて、眉間に皺が寄るような難しい新書が続いたので、いよいよ次は『ローマ人の物語 ハンニバル戦記』(全3巻)を“楽しんで”読むことにします。