2014年07月29日
土用の丑の日に絶滅危惧種の「ニホンウナギ」について考える
本日は「土用の丑の日」
土用の丑の日と言えば「鰻」ですが、私は本日の混雑を予想し、昨日“丑の日イヴ”にいただいてきました。いや、美味しかった。
でも、高かった。
以前はこの値段で二重になった鰻重が食べられたのに、同じ値段で1ランク、いや、2ランクは確実に下がっています。
なぜかというのは、みなさんもニュースなどで聞いてご存じでしょう。
先月12日、国際自然保護連盟(IUCN)によって、ニホンウナギが絶滅危惧種に指定されたというニュースをみなさん覚えていますか?
このIUCNのレッドリストというのは、生物の生息状況や個体数減少の原因などを科学的に検証したうえで、その危機の度合いを8段階に分類しているのですが、ニホンウナギは中間よりやや上の「絶滅危惧種1B類」に指定されています。
国際自然保護連盟(IUCN)のレッドリスト分類
実際漁獲量も激減していまして、稚魚は50年ほど前には年200トン以上あったものが、2012年は3トン、11年は5トン、10年は6トンという数字です。
稚魚の漁獲量の変化
天然の親ウナギも1978年まで年2千~3千トン台の漁獲量でしたが、2012年は165トンと1割にも満たない数字となっています。
IUCNによると、乱獲や生息地の環境悪化、海の回遊ルートの障害、汚染、海流変化などが原因としていますが、実際のところよくわかっていません。
われわれが食べているウナギは、実はその99%が養殖だったというのをご存じでしょうか?
日本人が1年間に食べるうなぎは約10万トンと言われていますが、そのうち天然のウナギは約300トンしかなく、99 %以上は養殖ウナギなのです。
しかし、この「養殖ウナギ」、ちょっと特殊な事情があるので、ご存じない方のために解説してみます。
ウナギの養殖は、まずシラスウナギと呼ばれるウナギの稚魚を捕まえることから始まります。
ウナギの稚魚である「シラスウナギ」
冬から春にかけて海から川に上るために河口付近に集まってくる天然のシラスウナギを、免許をもった業者が網で捕まえます。
これを養殖業者が買い取り、ビニールハウスで覆われた池などで約半年から1年かけて、200~300グラムの大きさになるまで育てます。
ウナギ養殖用の水槽(酸素を送る水車、保温用ビニールハウスが特徴)
こうして育てられたものが、かば焼きなどに加工する食用ウナギとして出荷されているわけです。
ニホンウナギは日本から約2千キロも離れた太平洋で産卵し、稚魚(シラスウナギ)は、海から川に上るために河口付近に集まってきます。
川に上ってしばらくするとクロコと呼ばれる親と同じ色をした稚魚に成長し、その後、多くは5~10年間、川や池で育ち、卵を産むためにまた海に下っていきます。
しかし、この海での生態がよくわかっていません。
なので、養殖と言っても、人工的にふ化させて育てるということが、これまで出来ずにいました。
言い換えると、天然の稚魚を捕まえなければ養殖が成り立たず、よって人工的に増やすことが出来なかったわけです。
しかし、4年前に三重県にある水産総合研究センター増養殖研究所が、人工授精から育ったウナギが卵を産み、ふ化する「完全養殖」に世界で初めて成功しました。
完全養殖を成功させる道のりの中で、これを阻む最大の課題は、ふ化させることよりも、ふ化した仔魚を育てるプロセスにありました。
ふ化はさせられても、稚魚(シラスウナギ)にまで変態させることが難しかったのです。
成長に必要な餌や環境が全くわからず、せっかく生まれた仔魚も成長できずに死んでしまい、なかなかシラスウナギまで育てることができませんでした。
しかし、さまざまな餌を試した結果、サメの卵が有効であることにたどり着くと、その後飼料の改良が進められ、見事シラスウナギまで成長させることが出来るようになりました。
これで人工的に増やすことが出来るようになり、食用ウナギも安定供給できる…と思ったら、事はそんなに簡単ではありませんでした。
ようやく人工シラスウナギが少しずつ育てられるようになり、これを親にして次の世代の仔魚をふ化させる「完全養殖」の実現は時間の問題だと思われました。
ところが、人工ウナギは一度にまとまった数が揃わず、さらに成長に個体差があり、また、共食いを防ぐために多くの小型水槽に分けて飼育しなくてはなりませんでした。
結果、成魚になるまで育てられたのはほんのわずかな数だっのたです。
さらに、養殖環境同様、人工飼育したウナギはみなオスになってしまい、卵を採るための母親候補のウナギを育てられません。
そこで、雌雄が決まる、成長の初期段階(シラスウナギの時期から約4~6か月間)にメス化ホルモンを添加した特別な餌を食べさせ続けてることで、稚魚のメス化にも成功しました。
こうしてさまざまな課題を乗り越えて「完全養殖」に成功はしたものの、まだまだ課題は残っていました。
仔魚を個別に視認しながら手作業で飼育管理を行うというような養殖方法では、年間で100尾程度育てるのがやっとだったのです。
一つのウナギ養殖業者に必要とされる年間のシラスウナギの数は、数十万~1千万尾を超える単位です。
今の飼育技術のままではこうした需要に応えることはできません。
しかし、完全養殖成功から4年経った今年の2月、水産総合研究センターから以下のようなプレスリリースがありました。
どうやら、いよいよ大量飼育への道筋が見えてきたようです。
日本人にとって、「食」の文化を語る上で、やはり鰻は欠かすことの出来ないもの。
中国産の鰻は例年より安く手に入るようですが、先日の期限切れ鶏肉騒ぎを見ると不安になります。
今後も水産総合研究センターには、「安全」でしかも「安い」ウナギがずっと食べ続けられるように頑張ってもらいたいなと思います。
そして、ニホンウナギが絶滅の危機から救われることを祈っています。
というわけで、かなり長くなりましたが、「土用の丑の日」にウナギへの感謝を込めてウナギの養殖事情のご紹介でした。
以前はこの値段で二重になった鰻重が食べられたのに、同じ値段で1ランク、いや、2ランクは確実に下がっています。
なぜかというのは、みなさんもニュースなどで聞いてご存じでしょう。
先月12日、国際自然保護連盟(IUCN)によって、ニホンウナギが絶滅危惧種に指定されたというニュースをみなさん覚えていますか?
このIUCNのレッドリストというのは、生物の生息状況や個体数減少の原因などを科学的に検証したうえで、その危機の度合いを8段階に分類しているのですが、ニホンウナギは中間よりやや上の「絶滅危惧種1B類」に指定されています。
国際自然保護連盟(IUCN)のレッドリスト分類
実際漁獲量も激減していまして、稚魚は50年ほど前には年200トン以上あったものが、2012年は3トン、11年は5トン、10年は6トンという数字です。
稚魚の漁獲量の変化
天然の親ウナギも1978年まで年2千~3千トン台の漁獲量でしたが、2012年は165トンと1割にも満たない数字となっています。
IUCNによると、乱獲や生息地の環境悪化、海の回遊ルートの障害、汚染、海流変化などが原因としていますが、実際のところよくわかっていません。
われわれが食べているウナギは、実はその99%が養殖だったというのをご存じでしょうか?
日本人が1年間に食べるうなぎは約10万トンと言われていますが、そのうち天然のウナギは約300トンしかなく、99 %以上は養殖ウナギなのです。
しかし、この「養殖ウナギ」、ちょっと特殊な事情があるので、ご存じない方のために解説してみます。
ウナギの養殖は、まずシラスウナギと呼ばれるウナギの稚魚を捕まえることから始まります。
ウナギの稚魚である「シラスウナギ」
冬から春にかけて海から川に上るために河口付近に集まってくる天然のシラスウナギを、免許をもった業者が網で捕まえます。
これを養殖業者が買い取り、ビニールハウスで覆われた池などで約半年から1年かけて、200~300グラムの大きさになるまで育てます。
ウナギ養殖用の水槽(酸素を送る水車、保温用ビニールハウスが特徴)
こうして育てられたものが、かば焼きなどに加工する食用ウナギとして出荷されているわけです。
ニホンウナギは日本から約2千キロも離れた太平洋で産卵し、稚魚(シラスウナギ)は、海から川に上るために河口付近に集まってきます。
川に上ってしばらくするとクロコと呼ばれる親と同じ色をした稚魚に成長し、その後、多くは5~10年間、川や池で育ち、卵を産むためにまた海に下っていきます。
しかし、この海での生態がよくわかっていません。
なので、養殖と言っても、人工的にふ化させて育てるということが、これまで出来ずにいました。
言い換えると、天然の稚魚を捕まえなければ養殖が成り立たず、よって人工的に増やすことが出来なかったわけです。
しかし、4年前に三重県にある水産総合研究センター増養殖研究所が、人工授精から育ったウナギが卵を産み、ふ化する「完全養殖」に世界で初めて成功しました。
完全養殖を成功させる道のりの中で、これを阻む最大の課題は、ふ化させることよりも、ふ化した仔魚を育てるプロセスにありました。
ふ化はさせられても、稚魚(シラスウナギ)にまで変態させることが難しかったのです。
成長に必要な餌や環境が全くわからず、せっかく生まれた仔魚も成長できずに死んでしまい、なかなかシラスウナギまで育てることができませんでした。
しかし、さまざまな餌を試した結果、サメの卵が有効であることにたどり着くと、その後飼料の改良が進められ、見事シラスウナギまで成長させることが出来るようになりました。
これで人工的に増やすことが出来るようになり、食用ウナギも安定供給できる…と思ったら、事はそんなに簡単ではありませんでした。
ようやく人工シラスウナギが少しずつ育てられるようになり、これを親にして次の世代の仔魚をふ化させる「完全養殖」の実現は時間の問題だと思われました。
ところが、人工ウナギは一度にまとまった数が揃わず、さらに成長に個体差があり、また、共食いを防ぐために多くの小型水槽に分けて飼育しなくてはなりませんでした。
結果、成魚になるまで育てられたのはほんのわずかな数だっのたです。
さらに、養殖環境同様、人工飼育したウナギはみなオスになってしまい、卵を採るための母親候補のウナギを育てられません。
そこで、雌雄が決まる、成長の初期段階(シラスウナギの時期から約4~6か月間)にメス化ホルモンを添加した特別な餌を食べさせ続けてることで、稚魚のメス化にも成功しました。
こうしてさまざまな課題を乗り越えて「完全養殖」に成功はしたものの、まだまだ課題は残っていました。
仔魚を個別に視認しながら手作業で飼育管理を行うというような養殖方法では、年間で100尾程度育てるのがやっとだったのです。
一つのウナギ養殖業者に必要とされる年間のシラスウナギの数は、数十万~1千万尾を超える単位です。
今の飼育技術のままではこうした需要に応えることはできません。
しかし、完全養殖成功から4年経った今年の2月、水産総合研究センターから以下のようなプレスリリースがありました。
新たに開発した大型水槽で、人工的に生産したニホンウナギふ化仔魚から200日齢の仔魚(レプトセファルス幼生、約900尾)を育て、さらにシラスウナギに変態するまで育てることに成功しました。
これにより、ウナギ人工種苗の大量生産、完全養殖ウナギの安定生産への道が見えてきました。
どうやら、いよいよ大量飼育への道筋が見えてきたようです。
日本人にとって、「食」の文化を語る上で、やはり鰻は欠かすことの出来ないもの。
中国産の鰻は例年より安く手に入るようですが、先日の期限切れ鶏肉騒ぎを見ると不安になります。
今後も水産総合研究センターには、「安全」でしかも「安い」ウナギがずっと食べ続けられるように頑張ってもらいたいなと思います。
そして、ニホンウナギが絶滅の危機から救われることを祈っています。
というわけで、かなり長くなりましたが、「土用の丑の日」にウナギへの感謝を込めてウナギの養殖事情のご紹介でした。
Posted by ug at 02:19│Comments(0)│ざっき
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