『池上彰の政治の学校』

出張続きの上、年末の忙しさでまったくもって余裕のない今日この頃ですが、合間を縫っての細切れ読書で何冊か新書を読了しました。

しかし、読書のスピードというものは、その中身によってこんなにも違うものかと、今回『日本の難点』(宮台真司著)と『池上彰の政治の学校』(池上彰著)を続けて読んでつくづく実感いたしました。
『日本の難点』は、新書サイズで286ページ、『池上彰の政治の学校』は同236ページと、50ページの差はありますが、前者が3週間超掛かったのに対し、なんと後者は2日弱で読み終えてしましいました。

文字数の問題ではないんです。
早く読めるということは、要はすっと頭に入ってくるってことなんですね。

学のない自分には、宮台氏の言っていることは難しすぎて、なんとか理解しようと努力しながら読むので、遅々として進まない感じでした。

そんな『日本の難点』は、読むのと同様、要点をメモ書きをするにも相当時間を要しそうなので、こちらは正月休みにでも書くことにし、本日は“2日も掛からなかった”『池上彰の政治の学校』をご紹介。

私にしては珍しく、今年の9月30日初版の、いわゆる新刊であり、ちょうど衆院選真っ最中の、まさにタイムリーな本でございました。

この本は、池上彰氏のテレビ番組がそうであるように、その道のプロの世界では常識過ぎて説明しないようなことを、素人の国民向けに優しく丁寧に解説してくれるものです。

その上で見えてくる、今の日本の政治が抱える問題について、読者と共に考えてみようという内容になっています。

多少は政治について知っていると思っていた自分でしたが、「へー、そうだったのかぁ」ということや、「そうだよ、そうだよ」と同感する部分も多く、あの語り口の優しさからか、辛口のコメントもすんなり受け入れられて、とても楽しく読むことが出来ました。

池上氏のテレビ番組「そうだったのか!学べるニュース」同様、「ホームルーム」や「1限目」、「特別授業」といった学校形式の構成も、わかりやすくて良かったです。

では、そんな本書の要点を…

◇ホームルーム『日本の政治、どこがおかしい!?』

政治家による「票集め」と、国民の追い求める「幸せの青い鳥」によって、政治がいつまでもよくならないという、今の日本の現状についての問題提起の部分です。

また、そこから生まれた橋下人気の理由について解説しています。
 
◆一限目『選挙…小選挙区制で様変わり』

現在の日本の衆議院議員選挙で採用されている「小選挙区制」について、それまでの中選挙区制とどう違い、それによってどういう問題が起きているのかについて解説しています。

また、政治と金について、どうして政治にはお金が掛かるのかや、政治献金、派閥と金についてなども知ることができます。

これらを知った上で、“票にならない”子ども手当がいかに画期的な政策であったかということや、先の社会保障と税の一体改革についても解説、最後に「固定票」といわれる団体票や「公明党の基礎票」にも及んでいます。

◇特別授業1『米国大統領選でわかる民主主義』

1年がかりで現在も行われているアメリカの大統領選挙ですが、意外にその仕組みを知らない人は多いのではないでしょうか。
ここでは、そんな大統領選挙について詳しく解説、そこから見えてくる民主主義の神髄や、三権分立の本質、日本の総理大臣との違いについて理解することができます。

◆二限目『政党…政策よりも票集めと席取り』

「55年体制」と呼ばれる戦後日本の独特の政治構造から、民主党と自民党の関係、各党の主義主張について解説しています。

◆三限目『国会…国会の主役はあくまで国民』

国の仕組みを決める憲法…「欽定憲法」と「民定憲法」の違いに始まり、三権分立や日本の国会の二院制等についての基礎知識を解説した上で、現在のねじれ国会についてや検察の闇の部分、総理大臣がころころ替わる理由等について知ることができます。

◆四限目『官僚…表で裏で政治家を操る』

民主党政権によって「官僚主導」から「政治主導」へ変わったと言われていますが、「官僚主導」とは果たしてどういうものか、そのからくりや省庁の力関係について解説するだけでなく、「政治主導」の可能性や目指すべき姿についても語っています。

◇特別授業2『「国家元首」をめぐるアラカルト…世界政治から見える日本』

アメリカの大統領選の他に、世界各国ではどのようにして国家元首が選ばれ、どのような権威を持つのか、国王や大統領、首相、国家主席等について、イギリスを始めとするヨーロッパやロシア、中国、北朝鮮等を例に挙げて解説しています。

◆五限目『ネットと政治…新聞・テレビの特権が崩壊』

インターネットと既存のメディアの違いを解説した上で、これからの特に既存のメディアのあり方について語っています。

◆六限目『ポピュリズム…民主主義政治の病』

冒頭の問題提起からもわかるように、この章がこの本の本題でしょう、一番多くページを割いています。

ポピュリズムとは、日本語で「衆愚政治」

冒頭でポピュリズムの象徴とも言って良い、維新の会の橋下氏と小泉元首相を取り上げ、その違いと人気取りの戦略について解説しています。

1週間おきに行われている、テレビや新聞等の世論調査による「支持率」が、政治家を週毎の人気取りに走らせている現状や、民主主義とポピュリズムの宿命と言って良い関係について解説、それによってもたらされる、人気のない政策の先送りなどの政治停滞について語っています。

その上で、こうしたポピュリズムからの脱却への提言を、政治家のみならず国民に対しても行っています。

◇ホームルーム『良い政治家と国民を育てるために』

最後に「先生はこう思う」として、解説ではなく池上氏の思いを語っている章。
投票率に表れる通り、北欧などと比べて極端に政治に関心のない日本人に対し、「政治家の育て方」、「国民の育て方」双方に提言をしています。

「日本の民主主義を育てよう」という氏の思いが伝わってきます。


とまぁ、ざっと紹介するはずが、このところの簡単更新のストレスからか、長々と結局自分のまとめ帳のように書いてしまいました。

3年前の民主党の政権交代に対する大きな期待と、それに対する落胆(裏切り?)が今回の衆院選の結果となったわけですが、私は国民みんながこの本に書かれている程度の知識を持っていたら、また違った結果になっていたのではないかと思いました。

これについては長くなるので機会があれば書いてみたいと思いますが、閉塞感の中「幸せの青い鳥」を求めて、「何か(劇的に)変えてくれるんじゃないか」と響きの良いことばや過激な発言に飛びついてしまう昨今、結局そんなものはないんだよということを優しく教えてくれる本だと思います。

政策は二の次として橋下氏や石原氏個人にリーダーとしての魅力を感じるのかもしれませんが、アメリカのように大統領選を通して鍛え上げられ、育てられたリーダーと違って、ポピュリズムに支えられた個人的人気に頼るのはちょっと怖い気がします。

本当に国民にとって大切な政策というのは、時に自ら痛みを伴うものもあるし、時間の掛かるものもある。

要は、政治家と国民の信頼関係の問題だと思います。

一言で言えば、国民が政治家を見る目をきちんと持つということなのではないでしょうか。

果たして、前回の政権交代もそうですが、今回の選挙でも本当に政治家として、きちんと理念を持った人を選んだのか…

池上氏も言っていますが、小泉チルドレンや橋下ベイビーズを見ていると、私としては甚だ疑問を持たざるを得ません。

そんな、政治家を選ぶ目を養うためにも、是非この本は読むべきだと思います。

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この記事へのコメント
今回の選挙は驚きの結果になりとても残念に思います。安部政権にそんなに期待している国民が信じられません。またがっかりさせられるのでしょうね。私も池上さんの本を読んでみたいと思います。
Posted by AMI at 2012年12月20日 13:21
>>AMIさん

安倍さんには、今度は「お腹痛くてや~めた」はしてもらいたくないですねぇ。
ていうか、漢字読めない方もまた副総理だの大臣だの取り沙汰されてますが、そういうの見ると、この3年間でまったく変わってなかったんだなぁと実感いたします。
Posted by ugug at 2012年12月21日 00:26
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