“鉄板”の名著『ワイルド・スワン』

先日の成毛眞著『面白い本』の巻末に「鉄板すぎて紹介するのも恥ずかしい本」として紹介されていた、1991年発表の中国人女性作家ユン・チアンの自伝的ノンフィクションです。

鉄板すぎる故か、同著の紹介文も非常に簡潔なものでした。

祖母は軍閥の将軍の妾、母は満州国成立の世を生き、夫とともに共産党へ。
自身は、中華人民共和国成立後の反革命鎮圧運動の中で生まれ、文化大革命の混乱期に青春を送る。
現代中国を知るために必須の1冊。

先日の『W杯「日本サポーターのゴミ拾い」に対する中国メディアの反応から』でも触れてしまったので、書くかどうか迷ったのですが、文庫本にして1巻あたり300頁超の上中下3巻という大作を、あんな紹介の仕方ではもったいないと、再度紹介することにしました。

前回も書きましたが、ここに描かれているのは、祖母、両親、著者と3代にわたる親子の、20世紀中国の激動の時代を生きた壮絶な姿です。

それはまさに、毛沢東の狂気とも思える独裁政治を明らかにするものでもあります。

中国共産党がどういうもので、文化大革命とは何だったのか、近代中国を知るための、まさに“必須の一冊”でしょう。

著者が現在暮らすイギリスでは、出版されて以来30週にわたってベストセラーの3位以内にとどまり、権威あるNCR文学賞のノンフィクション部門賞を獲得。

イギリス作家協会からも、ノンフィクション部門の年間最優秀賞を受賞を与えられ、BBCによってこの作品を基にしたドキュメンタリー番組が製作され1993年に放送されました。

日本での出版は1993年ですが、世界14カ国で出版され、1000万部を超えるベストセラーとなっています。

一昨年の2012年には、本作品を原作とした舞台がアメリカとイギリスで上演されています。(Wikipediaより)

是非みなさんにも読んで欲しいので、内容については深く書きませんが、この本の素晴らしいところは、厳しい言論統制によって…いや、恐怖におびえて人々が口を開かず、自由主義陣営に伝わってこなかった真実が初めて明らかになった「史実」としての部分もさることながら、すさまじい迫害の中でも保ち続ける「家族愛」の描写にあるように思います。

経済的に発展はしたものの、いまだ政治的には共産党支配の残る中国。

いくら習近平主席が開放的な政策を採ろうとも、独裁による悪政にいつ戻るかもしれません。

これまた前回も書きましたが、この本に描かれているようなとんでもない政治がつい最近まで行われていたことを考えると、そう簡単に中国人の思想が自由主義国家のそれに近づくとも思えません。

尖閣諸島沖の領海侵入や、このところ度々繰り返される戦闘機による自衛隊機への異常接近などもさることながら、いまだにこの本が中国本土で出版される予定すらないところを見ても、かの国を理解するのはまだまだ難しいように思います。

『ワイルド・スワン』


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