2013年05月04日
「弘前桜まつり」リポート(桜編)

残念ながら一分咲きの「日本最古の染井吉野」
それでは、「弘前桜まつり」のご報告です。
とはいっても、われわれの目的は「花見」ではなく、あくまで「視察」なので、ご報告と言ってもいわゆる観光案内のようなものにはならないことを予めご了承ください。
しかし、サクラについてのちょっとディープな部分を知ることは出来ると思います^^;
予告しましたように、今回はいろいろと参考になることが多かったので、まずはメインのミッションであった、弘前公園の「桜」について報告してみたいと思います。
みなさんご存知の通り、弘前公園のメインとなる桜はソメイヨシノです。
弘前城を基に作られたこの弘前公園(別名:鷹揚公園、鷹揚園)は、弘前市の中心部に位置し、その総面積は約49万2000平方メートル(約14万9000坪)にも及びます。

歴史的な話はみなさんの方が詳しいと思うので避けますが、三重の水濠に囲まれた城跡は、東京ドーム10個分以上と、公園と呼ぶにはあまりにも広く、ここに植えられるソメイヨシノを中心とした桜は約5000本にも及ぶそうです。
日本最古のソメイヨシノ (明治35年~)
園内には、1882年(明治15年)に寄贈された、現存する日本最古のソメイヨシノをはじめ、樹齢100年を越すソメイヨシノが300本以上もある上、日本一の幹回り(5.37m)を誇るソメイヨシノまであり、言ってみれば「二大ソメイヨシノ」がここにあるということになります。
八重紅枝垂れ他、園芸品種も多数植えられてはいますが、あくまでもソメイヨシノあっての公園だということは間違いありません。
しかし、そうした数や古木以外のところで、弘前公園のソメイヨシノが全国的に知られるようになったニュースがあります。
「サクラ前線は今いずこに」でもちょっと触れましたが、特に桜に関わる人間の間で有名となったのは、その管理の仕方でした。
園芸品種であるソメイヨシノは、成長が早いわりに寿命が60年から80年という「短命」が定説となっています。
ヤマザクラで200~300年、エドヒガンになると1000年以上という、自生種の桜の寿命と比べて、これはかなり短いものです。
戦後植えられたソメイヨシノが、2000年代に入って以来各地で寿命を迎え危機に瀕しているという話題は、あちこちから入ってきます。
弘前公園も例外ではなく、貴重な観光資源でもあるソメイヨシノの樹勢回復は、言ってみれば「死活問題」だったことでしょう。
しっかりと管理されていることがわかります
そこで、青森の特産品であるリンゴの剪定技術を応用して、ソメイヨシノの樹勢回復に取り組んだところ、これが見事に成功し、復活を遂げたということで脚光を浴びたというわけです。
主幹は剪定され、側枝だけで育つソメイヨシノ
「桜切るバカ、梅切らぬバカ」の伝えにあるように、桜は剪定に弱い(切り口から病原菌が入りやすい」とされてきたのですから、切ることで樹勢を回復するという考えは、それまでの常識を根底から覆すものでした。
雑菌が入らないよう、切断面にはすべて保護材が塗られます
以来、全国各地からソメイヨシノの花見名所を管理する人たちが、研修や視察に訪れるようになったということです。
「染井吉野に寿命はない」のテーマでの講演
私も公園の桜の管理を行う樹木医・小林勝氏の講演を、北上展勝地の開園90周年記念イベントで聞いてきましたが、「植物は無限に細胞分裂できるので、(桜に)寿命はない」と言い切る氏の話には説得力がありました。
切除方法にも工夫があります
要は、弱った主幹を切って、新しい枝を出させることで樹体を若返らせるということで、そうすると花芽の数も増えるのだそうです。
古い枝はほとんどありません
桜の花芽は今年伸びた新梢に付くのですが、若い枝ほど新梢の成長が早いので、花芽の数も増えると言うことなのです。
解説が長くなりましたが、では、そんな管理の下で復活したソメイヨシノはどんなものなのか、是非実物を見て来ようじゃないか、というのが私の今回のメインのミッションだったというわけです。
で、実際に樹勢回復されたソメイヨシノを見てみると、確かに古木然とした主幹と比べて異質と感じるほどの若々しい枝が伸びていて、「樹体の若返りを図る」という言葉が理解できました。
しかし、それを見ながら思ったのは、「長生きさせるための管理」は、必ずしも「見せるための管理」とは違うのかな?ということでした。
自分のところの公園の山桜の状態を考えると偉そうなことは言えませんが、やはり1本1本が生き生きと育っている姿が、私の理想とする桜です。
そこには、他の木々と同様「樹形」というものも大きく関わってきます。
先日の日本花の会結城農場の桜が、まさにその見本。
そういう見地からすると、申し訳ないのですが、弘前公園のソメイヨシノは、まさに畑にあるリンゴの木のように、良い実をつけさせるための剪定といった感じなのです。
具体的に言うと、桜の矮化(樹木の成長を抑える)技術のように見えるということです。

樹形を見ていただくとよくわかります
事実、ほとんどのソメイヨシノは本来の樹形ではなく、一様に側枝が伸びた背丈の低い(低くなった)ものばかりでした。
お堀に掛かる桜では、側枝が伸びた方がきれいに見えるので良いのかもしれませんが、主幹の太さから見ると、実際に花をつける枝は相当貧弱に見えます。
もしこれが、東北三大桜名所の「角館」の桧木内川沿いや、「北上展勝地」の北上川沿いにあったとしたら、あまりにも見栄えがしないものになってしまいます。
「北上展勝地」のソメイヨシノ 樹形と高さにご注目
この高さ、大きさでこその景観
「北上展勝地」は、不定根の誘導で樹勢回復に取り組んでいました
若い樹の多い桧木内川沿いのソメイヨシノはのびのびとした樹形
「北上展勝地」よりも若い感じがします(桧木内川沿いのソメイヨシノ)
その点弘前公園は、都市公園というシチュエーションだったからまだ良かったのでしょう。
また、側枝が育っていけば、もっと立派な姿になっていくのかもしれません。
市役所屋上から見た弘前公園 背の高い桜がないことがわかります
なんとしても長生きさせたいと思えば、こうした技術は見習うべきだと思いますが、われわれのように実生の山桜について、果たしてここまでする必要があるかというと、私的には必要ないというのか正直な感想でした。
もちろんそこには、「弘前桜まつり」の集客力を落とすことのないように、貴重な観光資源としての桜を維持し続けなければならない事情があることは十分承知です。
大量に枯死して一度評判を落としたりすれば、それが回復するまでに相当な年月が掛かるのは、われわれの磯部桜川公園を見れば一目瞭然ですから。
見て回ったソメイヨシノはほぼすべて、手が入れられていました。
講演で聞いてはいましたが、これだけの桜を管理する大変さや、樹勢回復までの涙ぐましい努力は、実際に見てみないと伝わってこなかったでしょう。
1年のうちのせいぜい10日のために、これだけの管理をされている弘前公園の姿は、大変勉強になりました。
訪れて本当に良かったと思います。
というわけで、マニアックな話になってしまって申し訳ありませんが、「弘前桜まつり」(桜編)の報告でした。
『弘前公園HP』
『弘前公園桜情報』←桜の剪定についてなど参考になります
Posted by ug at 19:00│Comments(0)│サクラぐるひ
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