目のつけどころが芽なんです
見よ、この美しさを…

今朝、通勤中にカーラジオを聞いていると、キャスターが赤坂にある桜坂という桜並木を中継していました。

どうやらそこはソメイヨシノ単独の並木ではなくて、数十種類の桜が植えられた場所らしい。
「ソメイヨシノは満開です。でも他にもこれから咲く桜がたくさんあります」に続き、「ここでは秘密の桜が見られるんです」と、目に付いた桜を解説し始めたまでは良かった。

私も「秘密の桜」とやらが気になって、ボリュームを上げて聞き入ったのですが、

「えーと、これは関山(かんざん)という桜です、芽が赤いようですけど、これから咲く桜ですね」

を聞いて、ずっこけた。

…あぁ、大層らしく解説してるけど、とんでもない素人だな

とすくに理解できたわけですが、まぁ、そんなのは毎朝テレビでも同様の放送を目にしてるし、仕方ないなと、ボリュームを元のレベルに戻そうとしたとき!!!

私にとって、どうにも聞き捨てならない言葉を耳にしたのですよ。

「えーと、山桜もありますけど、残念ながらもう葉っぱが出ちゃってますねぇ」


・・・・・・・・・


アフォかおまえは!!!!!

と、ひとりラジオに向かって叫んでいました。

ラジオ局に電話して「あんなトウシロウに解説させるな!!」と言ってやりたい気持ちを抑え、ソッコーで別の局に切り換えました。

とまぁ、こう書いても、みなさん「???」でしょう。

良いんですよ、別に一般の方は知らなくても。

しかし、仮にも公共の電波を使って情報を発信している人間が、こんないい加減な解説をするのはやめて欲しいと思ったわけです。

桜に限らずですけど、メディアが国民をどんどんアホ化させているようで、ホント腹が立つんです。

とまぁ、あまりの腹立たしさに前置きが長くなってしまいましたが、上述の「葉っぱが出ちゃってます…」について、山桜の名誉のために誤解を解いておきましょう。

山桜がソメイヨシノに比べて人気がない理由の一つに…というか最大の理由に、この「花より先に芽(葉芽)が出る」という特徴が挙げられます。

目のつけどころが芽なんです

「葉桜」という言葉がいつ出来たのか知りませんが、この言葉は紛れもなくソメイヨシノに日本全体が侵略されてからのものであることに間違いありません。

まさにそれは、桜の花期の終わりを示す言葉となっているわけですが、であれば山桜は「始まる前に終わっている」ということになり、先のキャスターの発言となるわけです。

実際のところは、葉が先に出る山桜ばかりではなくて、同時に出るものや、花が先というものもあります。

目のつけどころが芽なんです
天然記念物「初見桜」はかなり葉芽が先行します

しかし、開花が進むと同時に葉芽もどんどん生長するので、満開時にはソメイヨシノのように薄いピンク一色とはならず、そこには必ず若い葉も目にすることになるわけです。

目のつけどころが芽なんです
花と一緒に若葉(芽)が出ています

これをもって「今ひとつ華やかでない」というのが、現代のほとんどの日本人が持つ感覚なのです。

ところが、山桜好きにとっては、逆にこの芽(葉芽)こそが、一番の魅力なんですね。

正直、芽のない桜が奇形のように見えてきます。

目のつけどころが芽なんです
私の大好きな赤芽

というのも、これは我々が毎日、膨大な数の山桜の「花」を見ているからなんです。

本居宣長が「玉勝間」の中で、

花はさくら、桜は、山桜の、葉赤くてりて、ほそきが、まばらにまじりて、花しげく咲きたるは、またたぐふべき物もなく、うき世のものとも思われず 

と歌っていますが、要約すると「花は桜がことに素晴らしいが、その中でも山桜の新葉が赤くあらわれて、なかには細い葉もあり、そこに花がたくさん咲いているのはこの世の物とは思えないほど美しい」ということになります。

まさに、山桜にはこうした感覚を呼び覚ます美しさがあります。

群植されたソメイヨシノに洗脳された日本人は、桜を「群れ」でしか見なくなってしまいました。

花の一輪一輪を見ていないのです。

目のつけどころが芽なんです
天然記念物「大和桜」も赤芽

ですから、「桜川のサクラ」のような自生種の桜の最大の魅力である、「多様性」というものに、まったく気づきません。

確かに桜は仰ぎ見るもので、なかなか間近に見られる機会がないから仕方ないのかもしれませんが、「群れ」でしか見ていないとその魅力には絶対気づかないでしょう。

目のつけどころが芽なんです
ソメイヨシノの花芽(葉芽がごく小さいのがわかります)

というわけで、我々はなんとかしてこれを皆さんに知っていただこうと、試行錯誤しているわけです。

「桜川のサクラ」にはガイドが必要、というのは、歴史的なことだけでなく、こうした背景があってのことなのです。

さて、いよいよ桜川の山桜も、ぽつぽつと開花し始めてきました。

私は開花寸前~咲き始めの、あの柔らかくてなんとも言えない形をした「葉っぱの赤ちゃん」である、葉芽が大好きです。

様々な色の芽を見ていると、「花がなくてもこれだけで十分」と思えるほど。

もうしばらくは「芽フェチ」にとって幸せな日々が続きます。


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この記事へのコメント
以前から山桜は大好きでしたが,昨年,サクラサク里プロジェクトの皆さんの活動を知りとても感激し,ますます山桜の魅力に惹かれています。
でも,こちらのブログは今年初めて知りました。写真も文章もとてもありがたいです。私は市内在住ですが,これまでゆっくり桜川の桜を楽しむ余裕もなかったので,これから毎年楽しみたいと思っています。こちらのブログも楽しみです。
先日,学生時代の友達に久しぶりに再会する機会があり,桜川の桜の話をしたら,東京から見に来たいと言ってました。今年は二人で出かけられそうです。
Posted by さくら詩(うた) at 2014年04月03日 00:53
>>さくら詩(うた)さん

はじめまして。
お褒めの言葉をいただき、こんなに嬉しいことはありません。
また、山桜の魅力をご理解頂ける市内の方がいらっしゃることにも大変感激してしまいます。
さくら詩さんのような方が、一人でも多く増えると良いのですが…
お友達にも「桜川のサクラ」の魅力が伝わることを祈っております。
今後ともどうぞよろしくお願い致します。
ありがとうございました。
Posted by ug at 2014年04月03日 11:57
毎年、桜の花が咲く時期になりますと「花はさくら、桜は、山桜の、葉赤くてりて、ほそきが、まばらにまじりて」という文章の一部を思い出します。この文章は高校一年(昭和45年)の時に、古典の授業で習った文章の一部分だったと記憶しているのですがいまだに忘れずにいます。ただ最近になってこの文章の作者や作品名を知りたいとネットで調べてみたのですがなかなか見つかりませんでしたが、おかげ様で今日やっと見つけることができ有難うございました。心の霧が一つ晴れたようです。でも本居宣長さんが現在のソメイヨシノを見たらどうおもうのでしょうね。興味があります。
Posted by ゴロー at 2014年04月18日 10:33
>>ゴローさん

大先輩のお役に立てて嬉しく思います。

さて、「本居宣長がもしソメイヨシノを見たら…」ですが…

やはりソメイヨシノは異様に感じたのではないでしょうか?
なにせ遺言書に「山桜の随分花の宣キ木」を植えるように指示までしていたそうですから(現在も二代目の山桜が植えられているそうです)
桜ばかり300首を詠んだ『枕の山』を見ても、桜狂いであったに違いない方で、だとすればこれは間違いなく「山桜好き」と確信しています。
本居宣長の有名な歌に「めつらしき高麗(こま)もろこしの花よりも あかぬいろ香は桜なりけり」がありますが、「めつらしきソメイヨシノの花よりも あかぬいろ香は山桜なり」と詠んだかもしれません^^;

ありがとうございました。
Posted by ugug at 2014年04月19日 01:44
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